2019年10月29日に、辻愛沙子(株式会社カラス所属)がエードットのグループ会社として新会社を設立いたしました。
様々な人たちを乗せて前進していく「箱舟」として、社会と企業のハブになる
―社名の由来を教えてください。
辻:はい、社名はラテン語で「箱舟」という意味の『arca(アルカ)』にしました。
―「箱舟」ですか。
辻:私は今年で24歳になるのですが、私たちの世代って、幼いときからずっと「この先日本は、世界は、本当に大丈夫なのか?」という不安を感じながら育ってきたと思います。いわゆる失われた30年やソーシャルイシューというやつです。そしてこの先も、決して楽観視することのできない未来がきっと待っている。だからこそ私は、そんな荒れ狂う波の中でも「様々な人たちが多様性を保持したまま集い進める箱舟でありたい」という想いで、この新しく立ち上げた会社に「アルカ」という名前をつけました。
―事業内容はどのようなものですか?
辻:事業内容は、大きく分けて4つあります。1つ目は、主に「広告クリエイティブ」です。クライアントがいて、商材や目的などが決まっている状態で、案件ベースでコミュニケーションやデザイン周りのお仕事を進めていくケース。2つ目は、「ブランディング」。クラアントと長期的なお付き合いをしながら、ブランディングコンサルを行なうケースです。例えば、ゼロから企画をご一緒したTapistaのブランドプロデュースなどがこれにあたります。
―問題が顕在化しているか、潜在的な状態のままなのか、という違いですね。
辻:そうですね。今までの代理店ビジネスって、クライアントの抱える問題に対して「それをどう解決していくか?」ということを考えるのが仕事で、決められたお題に対して最終的な解決方法を求められる構造が多かったと思います。勿論例外はありますが。それに対して、ブランディングコンサルというのは「パートナー」として、クライアントの長期的なご相談相手、共闘相手になることだと思っています。特にこの領域は、私の得意な部分で貢献して行くことができると思っています。例えばf0・ f1層といった若い女性向けの企画やアートディレクションであったり、ジェンダーなどのソーシャルイシューをユーモアに解決するアイディアやブランド作りなどの武器を持って、パートナー企業の未来に向かって長期的に取り組んでいきたい。イメージでいうと、パートナー企業さんは漫画「キングダム」で言う所の「秦国」、「政」。arca/辻愛沙子は、自分の戦い方を磨き続け前線に出て戦う「将軍」と言ったところでしょうか。・・・この例え、伝わりますか?(笑)
―伝わってますよ!(笑)確かにそういったお仕事は、辻さんが得意とする領域ですね。
辻:業務内容の3つ目は、今までエードットが培ってきた資産をストックするプラットフォームをつくること。その代表例が、私が今年立ち上げた女性の社会問題などに焦点をあてたメディア「Ladyknows」です。そして今回、10/7(月)〜10/11(金)に渋谷のTRUNK BY SHOTO GALLERY で開催された「Ladyknows Fes 2019」は、全部で12社の企業にご協賛/ご協力いただき、約1,500人の方に来場していただくことができました。
―私も参加しましたが、たいへん盛り上がっていましたね。
辻:Ladyknowsを例としてあげると、まず「Ladyknows」というメディアがある特定の色や思想を持つことで、そこで発信するメッセージや世界観に共感するフォロワーが付きます。そして「Ladyknows」が発信力のあるプロジェクトとして成長すればするほど、協賛してくださる企業に対して還元できるものは大きくなっていきますし、イベントが終わったり、プロダクトが完成した後も、自分たちのプラットフォームにはきちんと資産として蓄積されていく構造です。企業と生活者をクリエイティブや思想で繋ぐ。そしてそのサイクルを回せば回すほど、全てのステイクホルダーにそれぞれのメリットがストックされていく。これは従来のクライアントワークの構造とは、大きく異なる点ですね。「Ladyknows」はあくまで1つのプラットフォームですが、アイディアやアクションを通じて、様々な企業の拡声器となり社会の代弁者となり、双方のハブとしての役割をになっていきたいと思っています。
―今の時代、「社会性」が重要視されるようになってきてますし、何かアクションを起こしたいと思っている企業も多そうですね。
辻:そうですね。そして最後、4つ目の業務内容として、自社ブランドやサービス、プロダクトといったものをつくりたいと思っています。実はすでにつくりたいと思ってるものもあるので…それらをひとつずつ形にしていけると思うと、今からとても楽しみです。
「何者でもない私」から「クリエイター辻愛沙子」へ。そしてそれを超える強いチームを。
―今回、新しく会社を設立しようと思ったその背景は?
辻:私はいま入社3年目なのですが、入社してから今日までの間、自分に何ができるか模索しながら、「とにかく打席に立って全力でバットを振る」ということをひたすらに続けてきました。そんな中、私が唯一使えた武器は「若い」ということ。そしてその「若さ」ゆえに見えている世界を具体的なアイディアに落とし込める事でした。若さが武器というのは、体力的な部分はもちろん、「若者文脈を理解している」ということです。例えば、ハウステンボスさんが展開していた2017年夏のお台場ウォーターパークのアートディレクションを任せていただいたことなどは、大きなきっかけになりました。
-なるほど、それが辻さんの武器だったわけですね。
辻:武器である以前に、「若者文脈を理解した上で、最終的にクリエイティブに落とす」という一連の流れが、私にとってはシンプルにおもしろく、楽しく感じられたんです。これまでの23年間で見てきた世界、熱狂したコンテンツ、考えてきた事が全て伏線となって、アイディアとなり具体的なアクションとなり仕事となり少しづつ伏線回収ができてきている。そんな感覚が仕事にはあります。そうやって自分が好きな世界観だったり、楽しいと思えるお仕事に全力で取り組み続けていった結果、「クリエイター辻愛沙子」として少しずつ認知されるようになっていったように思います。
―この2年間は、辻さん個人として力をつけた期間だったんですね。
辻:そうですね。自分の色を出して仕事を続けたことで、「クリエイター辻愛沙子」宛てにお仕事を頼んでくださる方が少しずつ増えていきました。会社に入る前は、デザインやプログラミングなど、具体的な武器のない自分をコンプレックスに感じていましたが、これまで自分が見て考え感じてきたものこそが自分の専門分野であり武器であると仕事を始めてから知る事ができました。自分は0→1で何かを考えてつくることが好きで、それが楽しくて仕方がないことに気づいたというのもあります。そして特にこの一年は、会社の中でそれぞれのスペシャリティを持つ人たちとチームで仕事をすることで、「私1人でものをつくる」から「チームでものをつくる」という感覚に、どんどん変わり広がっていく感覚があったように思います。その感覚の蓄積の末、「クリエイター辻愛沙子」という個人を超える箱が必要だなと感じ、会社を立ち上げることに決めました。
―個人を超える箱、ですか。
辻:「クリエイター辻愛沙子」からもう1個上のレイヤーに行きたいな、って思ったんです。やりたいことはどんどん出てくるけれど、私1人でできることなんて限られているから、やりたいことを全部実現するためには、「クリエイター辻愛沙子」をはるかに超えていけるようなチームをつくる必要があると思いました。そして一見チーム戦と個人戦は相反するものとして捉えられがちだと思うのですが、最高のチームを作っていくためにはそれぞれの色や武器を磨き続ける事がとても重要なんです。エッジの立った個人個人の集積によって最強のチームができていくというか。そのために、私自身もっともっと先に進んで、まだ誰も見たことのない新しい世界をつくっていく必要があると日々思っています。だから今は「とにかく外に出て、新しい世界を見たい!」という思いで全力疾走する日々ですね。
「変わり者」だって輝ける。私が頑張ることが、誰かの証明になる。
―「エードットの社員が新しくグループ会社を立ち上げる」というのは、会社が始まって以来はじめてのことですよね。
辻:そうですね。そもそもエードットって、会社自体の色が強いというよりは、個の色が強い人たちがたくさん集まっていて、それぞれが個性を出しながらも共闘しあっているんですよね。出来ることと出来ないことの差が天地のように激しい凸凹な私が、居心地の良い中に留まらずガンガン外へ出て新しい世界に挑戦をすることで、「自分で立つという意思と覚悟さえあれば、自分のやりたいことに挑戦できる場所はある」という、強いメッセージになるのではないかと思っています。例えば学校といった「社会」の中で、私はずっと「変わった存在」として見られる事が多かった。エードットに出会うまで、どの組織や社会に行っても馴染めなかった。でもそんな私が自分の足で立って前進していくことで、「変わり者」の人たちも輝ける場所がある、ということを証明していきたいんです。
―今までにもきっと、辻さんの姿に勇気付けられた人はたくさんいたと思います。
辻:そう言っていただけると、とてもとても嬉しいです。広告業界の中で新しい挑戦をどんどんしていくのがエードットの特徴だと思うんですけど、広告代理店という枠を超えて「エードット」という会社が社会に価値を提供し存在感を増して進化していくためにも、そのグループ会社である「arca(アルカ)」が、エードットの独立遊軍として新しいものに挑戦していく「異端児」になっていきたいな、なんて思っています。
―頼もしいです…!
辻:私たちの世代って、「社会的な優秀」からは外れた人たちであっても、その突出した部分を「強み」として持っていればどこかで活躍することができる、ということに段々と気づき始めている時代を生きていると思います。けれども社会の構造は今までの「普通」や「常識」を引き継いでそのまま進んでいる。だから、そういう社会の中で私のような凸凹満載な存在が前進していくことで、「こういう生き方もあるんだ」という1つの指標になって誰かをエンパワメントできたら、それは私にとって何ものにも代えがたい喜びだと思います。
クリエイティブをビジネスに。エードットの「独立遊軍」として進むその先には。
―辻さんの夢を教えていただけますか?
辻:夢というより、まず課題でいうと…そもそも日本って、クリエイティブ領域に対する価値がすごく低い国だと思うんです。美しいものや面白いことは皆好きなのに、あくまで人生や社会や仕事のオプションだと思っている。でも本来のクリエイティブって、側の演出だけではない「物事の本質」を見抜き捉える力が軸にあり、その上にそれをどう表現し伝えるかというクラフト、演出が乗っているものだと私は考えています。だから次世代のクリエイティブカンパニーとして、わたしたちの具体的なアクションひとつひとつを通じて、クリエイティブが社会に提供できる変化や進化の価値を伝えていく必要があると思っています。
―日本のクリエイティブに対する価値の低さは、よく問題視されていますね。
辻:そうですね。クリエイティブの価値を上げていくためには、クリエイティブをクリエイティブにとどめることなく、ビジネスにしていくことが大切です。「いいもの」をつくるのを大前提としながらも、社会にとってどのような経済合理性があるか?と言うことを考えながら、クリエイティブをちゃんと「ビジネスに落とす」ということを、会社としても個人としてもやっていく必要があります。だからこそクリエイターにとどまらず、「経営についても学びたい」という思いから新しく会社をつくりました。
―どちらか片方ではなく、両方の感覚が必要ということですね。
辻:そうですね。さらにいうと、私の武器であるクリエイティブ/ビジネス/ソーシャルアクションの3つは、それぞれ別軸ではなく、ベン図のように重なって初めて永続可能で影響力のあるアウトプットになるのだと思っています。
―なるほど。アルカ、そして辻さんが目指す目標ってどんなものなのでしょう?
辻:「エードットでは生まれなかったサービスやプロダクトをつくっていく」というのがアルカでの野望です。わかりやすく言うと「YouTubeってGoogleの子会社なんだ!」という。さらにいうと「Googleってアルファベットの子会社なんだ!」って感じですかね(笑)エードットへの愛を掲げ、「アルカってエードットだったんだ!」といつか言ってもらえるように、エードットを超える会社を目指していきたいです。そしてアルカがエードットに台頭していくプロセスの中で、私個人としても子会社の社長にとどまるのではなく、最終的にはエードットの経営にも関われる人材になっていきたい、と実は虎視眈々と思っています。私がエードットに感じる信頼や愛は、何よりも「変化し続ける」ところにあります。朝と夜でどんな成長があったか、変化や学びがあったか、を日々自問している自分にとって、この環境は何よりの舞台。常識や慣習に捉われずフラットに変わり続けていく会社だからこそ、”20代の女性が上場企業の経営に参画する”なんて面白いじゃないですか。目標は25!なのであと2年ですね。
―あと2年。辻さんなら、実現できてしまいそうですね。
辻:ありがとうございます。頑張ります。エードットで役員を目指すか、アルカで上場して鐘をつくか。今年3月、エードットが上場する時に、鐘をついてたのがほぼ男性だったのが、自分としては正直ショックだったんですよね。もちろんそこには性差別の意識があるわけではなく、実情をフラットに判断した結果そうなっただけなのですが。だからこそ、私が新しい風を吹かせる「独立遊軍」になれるよう頑張っていきたいなと思っています。エードットにとっても、これからの社会にとっても。
―おお、かっこいい!辻さんの吹かせる新しい風、楽しみにしています。そしてこの先も、ずっと、応援してますね!
株式会社エードット→Birdman広報担当。あだ名はなっちゃん。コーヒーとコーホーの人。