2021年2月22日。株式会社エードットは、株式会社Birdmanへと社名変更を実施。それに伴い、CI(コーポレートアイデンティティ)やVI(ビジュアルアイデンティ)の変更も同時に行われた。
そもそも「Birdman」という社名は完全な新社名ではなく、それまで子会社であった「BIRDMAN」の社名を採用したものであり、このような社名変更の仕方は極めて珍しい。
過去の歴史を引き継ぎながら、さらなる高みを目指すために名付けられた「Birdman」という社名。これには、クライアントのビジネスをより飛躍させる存在になるという意志、私たち自身もさらなる飛躍をしていく決意、想定外の選択肢からあえて発想する戦略的遊び心、そうした3つの想いが込められていると言う。
「Birdman」に限らず、社会の変化に合わせて、企業の目指す方向や掲げるビジョンを変化させる企業も少なくない。むしろ、目まぐるしく変化する社会の流れに取り残されぬよう、個人レベルにとどまらず、企業レベルでの意識のアップデートが常に必要になってきているとも言える。
時代の流れのせいか、それとも自社のCI/VIの変更を行ったせいか、実際Birdmanではここ最近CI/VIに関する依頼が増えており、現在進行中の案件も多い。Birdman で Director / Producerを務める宮坂は「コロナ禍の影響で、事業の領域や企業としての存在意義そのものを“再定義”しようとする動きが高まり、その定義を明文化・可視化するCI/VI構築の依頼が増えているのでは」と語る。
企業の目指す方向が変わったのであれば、企業の掲げるビジョンやミッションを変えるのはもちろん、それらを浸透させるまでの戦略が必要になってくる。そこで今回の記事では、自社の案件含め、これまでにも多くのCI/VI案件に携わってきた Director / Producer の宮坂と Art Director の星川にインタビューを行った。Birdmanの社名変更に伴うCI/VIリニューアルを1つの事例として挙げながら、なぜ今企業がこぞってCI/VIを見直すのかについても分析。社名変更やCI/VI変更を検討中の企業だけでなく、今の時流をつかみたいビジネスパーソンにもぜひ読んでいただきたい内容である。
Solution本部/本部長/執行役員
Director, Producer
慶應義塾大学法学部卒業。クリエイティブブティックでコピーライターとして主にブランディングに、その後ビジネスマン向けメディア事業会社にてコンテンツ開発を経験し、2018年よりBirdmanに参画。Solution本部長/ディレクター/プロデューサーとして、広告・ブランディングから事業開発・プロダクト開発に携わる。主な実績に、IBM SECOND LIFE(D&AD Award 2020)、スマート仏壇「cohaco」開発など。
Design本部/本部長/執行役員
Art Director
東京理科大学工学部建築学科卒業。ファッション、ビューティー、音楽業界での様々なプロジェクトへの参画を経て、チーフ・アートディレクターとしてBIRDMAN(現Birdman)に在籍。グラフィック表現だけに留まらず、デジタルエクスペリエンス領域までと、幅広いボーダーレスなビジュアルプレゼンテーション領域にて活躍。メディアにとらわれない多面的なアプローチによるユーザーエクスペリエンスの演出(ブランディング、インタラクティブデザイン)を得意とする。Cannes Lions, One Show, ADC, Clio, London International Awards, Spikes Asia, Adfest, FWA など国内外のアワード受賞歴多数。
コロナ禍で加速した、2つの潮流。
-Birdmanでは2月の社名変更に伴い、CI/VIの大幅なリニューアルを行いましたね。その影響もあり、最近ではお客様からCI/VI変更のご依頼が多くなったと伺いましたが、このタイミングでそのようなご依頼が増えた理由は一体なんだと思われますか?
宮坂:このコロナ禍において、CI/VI案件のご依頼が増加している要因は、以前より顕在化していた「2つの潮流」が一気に加速したことが考えられます。
-「2つの潮流」ですか…?
宮坂:はい。1つ目は「デジタルシフト」の動きです。コロナ禍によるワークスタイルやライフスタイルの急激な変化が、DXやD2Cといった事業のデジタルシフトを強力に後押ししたと言えます。
-確かにこの1年は、個人も法人も変化を受け入れざるを得ない状況にありましたよね。
宮坂:そうなんです。その社会の変化に合わせて、まず変わったのが「事業レベル」のブランディングニーズ。例えば「DX型の新規事業開発からブランディングまでを伴走してほしい」という依頼が増えました。最近だと、とあるB2C企業様の案件で、リアル店舗一本槍の事業を見直して、アプリやD2Cによるオンラインサービスを立ち上げるプロジェクトを進めています。
-なるほど。時勢に合わせて、自社の事業を見直す必要が出てきますよね。
宮坂:その次に変わったのは「コーポレートレベル」のニーズ。DXの追い風を受けて事業を拡大した結果、“事業領域の再定義”が必要になり、コーポレートブランディングを見直したいという依頼が増えました。例えば、AUR株式会社さん。コロナ禍の影響もあいまって、従来の「デジタルPR」から、「ライブ配信、デジタルマーケティング」という新規事業をスピーディーに展開されていった企業です。そのような事業の変化を受け、「デジタルPRだけでなく、ユーザーや顧客との関係構築(エンゲージメント)をプロデュースする企業として、事業領域を再定義し、VIも見直したい」という依頼をいただきました。そこで私たちBirdmanからは、『ENGAGEMENT INNOVATION』という事業領域のコンセプトを提案し、それに伴うVI開発〜WEBリニューアルを行いました。
AUR株式会社 公式サイト:https://www.aur.co.jp/
-「デジタルシフト」への動きが一気に加速したことで、企業や事業のニーズも変化したと言うことですね。
宮坂:そうですね。そして加速した潮流の2つ目が「パーパスドリブン」です。
-「パーパスドリブン」…とは?
宮坂:これは1つ目の潮流である「デジタルシフト」の影響も大きいと思うのですが、コロナ禍で各業界の“再編”が行われる中、企業やサービスの社会的存在意義=パーパスを明確化しようとする動きが加速していると言えます。
-なるほど。以前に増して、企業の社会的存在意義を明確化する必要が出てきたと言うことですね。
宮坂:そうです。投資市場(SDGs/ESG投資)や採用市場(Z世代/ミレニアル世代)の影響を受けて、パーパスを明確に打ち出そうとする動きはもともとあったのですが、それが昨今の社会の変化によってさらに後押しされたと言えます。さらに、メルカリやユーザベース、ラクスル等といった“シンプルかつ明確”なパーパスで、投資市場や採用市場を惹きつけるゲームチェンジャーたちの影響も大きいです。実際、私のクライアントである金融系企業様でも、社会的存在意義(パーパス)観点でビジョンやミッションを再定義するプロジェクトを現在進行中です。
-確かに。変化することだけに意識が向きそうですが、変化した分だけ「再定義」することも重要ですね。
宮坂:コロナ禍の影響もあり、この春、我々Birdmanもグループ統合という変革を敢行しました。1つの会社として結集するにあたり、パーパス観点でミッションを「Strategy&Crazy」と再定義し、「戦略的遊び心を武器に、不確実な世界の中で夢のある体験をインストールしていく」という存在意義を示しました。
CI/VIは、0→1と1→100の連携が重要。
-「デジタルシフト」への動きと「パーパスドリブン」を明確化する必要が出てきた結果、CI/VIを変更する企業が増えたと伺いました。実際、BirdmanではそのようなCI/VI案件が多いと思うのですが、CI/VIの変更を行う上で気をつけていることはありますか?
宮坂:「デジタルシフト」による事業ブランディングであれ、「パーパスドリブン」による企業ブランディングであれ、重要なのは「作って終わりにしない」ということです。CI/VIは、新たに構築する0→1のアクション《Creation》と、構築したCI/VIを浸透させる、あるいはそれをもとに事業を伸ばす1→100のアクション《Operation》という2つのフェーズがあります。どうしても、新たに生み出す《Creation》に意識が集中しがちなのですが、むしろ重要なのは《Operation》の方。企画・制作である《Creation》の段階で、浸透・運用の《Operation》の戦略も練られているべきだと考えます。
-実際にCI/VIを変更したいと言うクライアントに対し、Birdmanではどのようなサポートを行っているのでしょうか?
宮坂:まずは、新規事業立ち上げの場合。ブランディングやプロダクト開発はもとより、グロースのためのデジタルマーケティングやプロモーションまでを戦略に折り込み、実際に事業計画を引いて実践するところまでをサポートいたします。
-開発から、その事業を成長させる戦略までお任せいただける、と言うことですね。
宮坂:はい。コーポレートブランディングの場合も、新規事業立ち上げと同じく、CI/VIの開発とともに、その浸透施策の提案・伴走も可能です。さらに、パーパスやミッションを日々の行動にインストールするためのVALUE(行動指針、価値基準)の策定や、その浸透策もご提案させていただいています。人事のプロとのパートナーシップにより、人事制度や評価制度に取り込む仕組み化までサポートすることが可能です。
-新しく作るところから、それを浸透させていく部分まで、幅広くサポートしていただけるんですね。一気通貫して、最後まで伴走してもらえるのも安心です。宮坂さん、お話ありがとうございました。
タグラインは、社員の“モノサシ”。コーポレートロゴは、企業が進むべき道への“覚悟”の表れ。
-ここからは、星川さんにお話を伺いたいと思います。エードットからBirdmanに社名変更する際、何よりもまずコーポレートロゴを変更する必要がありましたよね。新しいコーポレートロゴを制作する上で、大切にしたことはありますか?
星川:新社名が決まってからロゴをデザインするにあたり、まず最初に大切にしたことは、「旧BIRDMANのロゴイメージを刷新する」ということでした。統合前の子会社のひとつである「BIRDMAN」の社名を引き継ぐ。それはつまり、グループ各社に所属していたメンバーの様々な想いを背負ったロゴになることを意味していたので、とにかく「シンプルにカッコ良い」デザインで、みんなに好きになってもらえる、共感してもらえる、誇らしく思ってもらえるようなロゴを目指しました。
-なるほど。そのようなことを意識して作られた「Birdman」のロゴデザインは、どのようなプロセスを経て形になったのでしょうか?
星川:まずは「方向性の絞り込み」に最も時間を使いました。他社事例の分析と共に、タイプフェイス、文字のスペーシング、エレメント分解、シンボルマーク…といった具体的なデザインスタディへの落とし込みで、100パターン以上の検証を行いました。その中で、僕らが目指すべきブランドイメージの方向性として「シンプル/潔さ/クール/飽きない/親しみさ」などのエッセンスを抽出。デザインエッセンスのフォーカスを絞る作業を繰り返しながらディテールへの落とし込みを行い、いまのロゴデザインを開発しています。
星川:Birdmanロゴには、右上方向に一直線に伸びる5本のラインが隠れています。それらのラインには、僕らの社名への想いである「企業と社会の成長に寄り添う意思」が込められており、そのようなエッセンスも、フォーカスを絞る作業の中で導き出されたアイデンティティのひとつになります。
星川:また、創業理念の意思を引き継ぐ形で、統合前のadotシンボルカラーであるレッドを継承しつつも、目指すべきブランドイメージに見合う落ち着きのある色合いにアップデートしています。コロナ禍というこの特異な状況で、図らずもオンラインコミュニケーションの発達によってディスプレイ越しの交流が増えたこともあり、モニターを通して受ける印象にも配慮しています。
星川:さらに、CIの重要な要素のひとつとして、「Strategy & Crazy(戦略的遊び心)」というタグラインも開発しています。社員ひとりひとりが「Birdmanらしく」あるために、大切にしなければいけない日々の活動のモノサシとなって、徐々に社内でも浸透し始めてきた気がしています。
-ものすごく沢山のことを考え、検証した結果、辿り着いたものだったのですね…!新しくなったコーポレートロゴに対して、周りの皆さんからの反応はいかがでしたか?
星川:特に印象深かったのは、社内で初めてお披露目した時の社員のみんなからの反応でした。「カッコいい!」「早く名刺が欲しい!」とすごくポジティブな反応をもらえたので、制作時の苦労が報われた瞬間でした。とりわけ、デザインチームからのポジティブな反応には格段に救われました。と同時に、この会社のブランディングを僕ら全員で作り上げていくスタートラインにようやく立てた実感が湧き上がり、これから会社が進むべき道への覚悟が決まった瞬間でもあったように思います。
CI/VIは、企業の次なる成長の“起爆剤”になり得る。
-完成したコーポレートロゴは、その後どのような形で展開されていったのでしょうか?
星川:社名変更後のブランドイメージを伝える為のVI展開としては、名刺や封筒、社内ドキュメントなどのアプリケーション類、オフィスエントランスなど、ロゴの露出を最大化するようなデザイン開発を行いました。嬉しいことに社内外の評判も上々で、VI展開がとても効果的に機能しているように思います。
-社名変更に合わせて、オフィスの2階も大幅にリニューアルしていましたね。
星川:はい。ミーティングルームが併設された2Fスペースは、コーポレートカラーを活かしたインテリアになっています。さらに、社内有志メンバーが制作したBirdmanロゴモーションによる3面ディスプレイ演出で、社外の方々をお迎えする仕掛けも作っています。Birdmanを空間で感じることができる、会社の顔的なスペースでもあるので、弊社にお越しいただいた際には是非お楽しみ頂ければと思います。
-社名変更というのはそれこそ一大イベントですよね。それに伴いCI/VIが変わったことをお客様に伝える際、何か手紙やノベルティなどをお配りしたのでしょうか?
星川:新CIコミュニケーションツールとしては、まず挨拶状を制作しました。挨拶状といっても、普通のメッセージカードではなく、僕らならではのアイデアを詰め込んだツールになっています。
-と、言うと?
星川:コロナ禍ということもあり、社内公募によって選ばれたデザインマスクを制作したのですが、マスクに同封されたメッセージカードのQRコードをスマートフォンで読み込むと、AR(拡張現実)によって、カメラ越しに見えているリアル空間に立体的な新「Birdman」ロゴが現れるような演出を施しています。シンプルな仕掛けですが、カードを受け取られた方の評判も非常に良く、僕らの可能性を少しでも感じてもらえる有効的なツールを制作できたのではないかと思います。
-なんだか面白い仕組みが盛りだくさんですね。それでは最後に、自社のCI/VIを変更してみてのご感想をお願いします。
星川:自社のCI/VIの変更を経た今、何よりも「ビジョンをカタチにする大切さ」を感じています。ロゴとは、コンセプトやビジョンといったブランドの本質を具現化、図案化したものです。ブランドの旗印であるロゴを背負うことで、自分も含め社員ひとりひとりが「前向きになる」「自信が持てる」「プライドが芽生える」「人生をかけられる」と思えるような、パワーを秘めたアイデンティティを生み出せるかが非常に重要な点だと実感してます。それは決してスーパーマンのような1人の天才がパッと作ってくれるものではなく、ビジョンをカタチにするために議論に議論を重ねた集大成としてのみ実現し得るものだと思います。そしてその集大成が、企業の次なる成長へ向けた新たなスタートへの“起爆剤”にもなる重要なエッセンスだと言うことも身に染みて実感しました。
-今後、この経験を活かして挑戦したいことはありますか?
星川:確かにCI/VI開発は体力と根気が必要な作業ではありますが、「ビジョンをカタチにした」CI/VIが、企業やブランドの成長する力(ネクストステージへ前進する力)をブーストする威力は何にも代えがたいものだと思います。社会の目まぐるしい変化の中で悩んでいたり、熱い想いをカタチにしたいと考えていたりするような企業やブランドと一緒になって、ひとつの共通ゴールを目指していける戦略的なクリエイティブパートナーとして併走していければと考えています。そして、タッグを組むことによるシナジーを発揮し、質の高い成果を生み出すことでブランドの成長のお手伝いが出来ればと思っています。
-星川さん、面白いお話をありがとうございました!今後、どのようなCI/VIを開発していかれるのか楽しみにしています。
現在Birdmanでは、皆様からのお仕事のご依頼・ご相談をお待ちしております。CI/VIの変更はもちろん、その他にも幅広いご依頼に対応しておりますので、お困りのことがございましたらお気軽にご連絡くださいませ。
株式会社エードット→Birdman広報担当。あだ名はなっちゃん。コーヒーとコーホーの人。