上場しなくても幸せになれるこの時代に、なぜエードットは上場を選んだのか。

SNSをひらけば「何億円を調達しました」という投稿をザラに見かけるようになった。エンジェルやVCや投資会社から調達することが、至極「当たり前」の環境。その中で「上場」と聞くとなんだか時代遅れのような空気すら感じる。渋い谷にあるルノアールあたりからは「上場なんて古いしね」という声が聞こえてくる(本当に聞いたことがある)。

さて、そんな渋谷の風も感じながら3月29日に「エードット」という会社がマザーズに上場した。エードットはまだまだ小さな会社だ。設立から6年半。会社のメンバーは総勢100名ほど。社長の伊達晃洋(だて あきひろ)は34才で、社員はほとんど20代が占めている。企画、デザイン、PRを武器にした会社であり、総合代理店の機能を有したベンチャー企業だ。(僕はエードットの役員をし、カラスというクリエイティブ子会社の代表をしている)「この時代になぜ上場を選んだのか」を代表の伊達に聞いた。

Q. 上場以外の多様な調達方法もあったと思うのですが、なぜ「上場」を選んだのでしょう?

よくいう話ですけど「会社としての信頼」が圧倒的に大きな目的です。僕たちの仕事は、クライアントがいて成り立つものだし、大手の人たちとも渡り合っていかなくてはいけない。会社を作った当初は自分の個人的な熱量で「伊達くんにお願いするよ」と応えてもらえたことが大きかった。でも会社を育てていくためには、「エードットにお願いしたい」と思ってもらえるようにならなくてはなりません。そのためにも「上場している」という信頼感や空気感はとても大きいものです。

上場は「適正な会社になるための試験」みたいなものだと捉えています。ただ「売上や利益がでている」だけでは上場できません。きちんとした組織があり、お金の流れが透明であり、働き方もすべて適正な仕組みが求められます。膨大な量のチェック項目があり、全て通過しなければ上場はできません。なので「上場する」するということは「ちゃんとした会社ですよ」というお墨付きです。

それらの項目を潰していく上で、「会社がまっとうなものになった」という実感があります。会社が丸裸になる感じですね。当たり前ですが僕の経費だって全部みせているわけです。会社をクリーンに整えるということだけでも、上場プロセスを歩んでよかったと思います。

Q.いつから上場しようと決めてました?

それ自体は、会社をつくる前、26歳くらいのころから決めてました。上場っていうものが何なのかもわかってなかったけど、どうせ会社をつくるなら、やっぱり上場して、電通とか博報堂に対抗する会社をつくってやろうって、ただの漠然とした夢でした。

その漠然としたものが具体に変わったのは、あるファイナンスのスペシャリストの人に出会って「やるなら早い方がいいし、この会社なら2年半でいける」と言ってくれた瞬間でした。そこからすぐに具体的に準備をはじめて、いろいろあった結果3年半で上場することができました。そういった出会いは大きなきっかけです。

Q.資金調達は目的ではない?

もともと資金調達的な意味はほぼありませんでした。僕たちエードットの商売には大型の投資は必要ありません。一つずつ、着実に、堅実に売上をつくっていく。そういうものだったからです。今でも100万円~300万円の仕事を、着実に積み重ねていくことで売上が成り立っています。

ただ、上場して思ったのは「まとまった資金がある」という状態は会社にとってものすごく意味があるということでした。例えば、震災が起こって多くの仕事がストップしてしまっても、社員たちをきちんと守ることができるとか。そういう安心が生まれたのはよかったです。

さらに、これから先はもっとチャレンジングな仕事をしていこうと思っています。投資が必要なビジネスも増えていきます。そのための元手資金ができたことで、より会社の明るい未来を描けるようになりました。

Q.VCなどの調達は考えなかった?

先ほども言ったことだけど、僕らのビジネスは、ビジネスというよりも商売のようなものです。ひとつずつ着実に仕事をしていく、それこそが強い会社をつくる、というある意味では「昭和的な価値観」を基本に商売をしています。

だから、ワンアイデア、ワンビジネスで数十億の出資を受ける、ということは一切考えたことがありません。今の社会では数年先も何が起こるかわかりません。だから僕自身はそんな責任をとれる気がしないし、僕はコツコツと商売を続けてきた人間なので「数億円の利益」を還元することが、どれだけ難しいことかもわかっているつもりです。VCで調達してレバレッジかけて、という人がいることはわかっていますが、僕たちのやり方ではいだろうと感じています。

同時に、とにかくインデペンデントな存在でありたいという思いがありました。誰かに依存するのではなく、誰の後ろ盾もなく、自分たちで意思決定して行動できるような組織づくりを目指していました。その思想においては、大型投資は適していません。この上場のタイミングまで、インデペンデントにやってこれたのはとてもよかったです。

Q.今後、株主や株価は気になりますか?

もちろん気にしますし、期待には応えたいと思います。そういった「見てもらっている」という状況にむしろ心地よさを感じています。いろんな人の意見を聞ける状態なんて、今までありませんでした。そういった「見ている人がいる」という状態は、僕ら自身の成長につながるだろうと感じているし、楽しみです。

Q. 上場後はどんな会社に?

とにかくチャレンジングな会社にしていきます。adotはadventure companyを標榜しています。それはクライアントや社員の夢を応援する会社です。
「上場したら、思い通りにできなくなるよ」とか言う人もたまにいますが、そんなことはあり得ないと考えています。むしろ挑戦していかなければ、見向きもされません。挑戦しつづけて、結果をだす。そういう会社にします。例えばプロダクト開発や業態開発といった新規事業に挑戦していきます。時には自社で、時にはクライアントともににも取り組んでいくし、投資もスタートします。

電通や博報堂やベクトルなども競合としては考えていません。僕たちは僕たちのスタイルで挑戦し、会社を伸ばしていき、輝いていけたらと思います。